インタビューの方法について


 インタビューは、直接観察だけではとらえにくい事柄に関するデータを、当事者との会話を通じて得る方法です。質的研究では、直接観察法だけでは得られないデータが必要になるのが通常です。直接観察は時間と労力をとられるため、それを実際に行える範囲は時間的、空間的、体力的にもかなり限られています。また、過去に起こった出来事などは、観察しようがありません。当事者のプライベートな生活のような研究者がアクセスしにくい場所で起こっている出来事についてもそうです。質的研究では、とくに、当事者の感じていることや考えていること、当事者のものの見方・感じ方・考え方を理解することが重要になりますが、それらは当事者の頭の中にあり、直接観察だけからは必ずしも十分な理解が得られないものです。観察による以外のデータが研究の中心的データになるか補助的なデータになるかは別として、直接観察だけではかならずしも十分な研究ができないものです。

 「入門編 ステップ2 研究手続きを検討する」の項目のところで述べましたように、質的研究では、質問する事柄についておおざっぱな計画(インタビューガイド)は立てて面接に臨むけれども、相手の話しの流れに応じてかなり質問の項目、順序、形式を柔軟に変えて面接を進めるのが一般的です。インタビューの最中に、研究に関わる重要な話題が相手から出てきたら、インタビュアーは当然、そのことについてより詳しい情報を得ようとして、その話題をめぐる会話をさらに促します。質問するタイミングはきわめて重要であり、相手の記憶が鮮明なうちに聞かなくてはならない事柄についてはそれは決定的です。その結果、予定していた質問項目を次回にまわしたりします。また、研究に役立たない話が続くときは、別の話題に移るようにします。また、相手が都合が悪くなったりして時間がとれなくなったときには、最も早く聞きたい質問だけを聞いて切り上げたりします。特別な場所やまとまった時間のアポイントメントをとれないときは、授業中の机間指導のときの短い会話、廊下での立ち話、昼食を一緒に食べながらの会話、あるいは電話やEメールでの会話(「面」接とはいえないですが、その延長上にあるとみなせます)のような形式張らない機会を利用したりします。

 したがって、インタビューするに当たっては多くのことを検討して対応しておかなければなりません:

a. インタビューの場所と機会

b. インタビューの形態

・形式張らないスタイルか、形式張ったスタイルか

・インタビューガイドを作成するか

・なんらかの課題に取り組ませるか

・個人インタビューか、グループ・インタビューか

c. どういう質問をするか

d. どういう順序で質問するか

e. どれくらい詳しく聞きだすか

f. どれくらい時間をとるか、何回行うか

g. 実際にどういう言い回しで質問するか

h. どういう手段で記録するか

  以下では、インタビューの質問や進め方等についての細かい点について論じます。ここでは、インタビューについて優れた議論を展開していることで有名な書物Michael Quinn Patton (1990) Qualitative evaluation and research methods (2nd ed.) Newbury Park, CA: Sagepp. 277-368の記述をもとにして説明します。

インタビューの内容

(1)経験/行動に関する質問

  これは、当事者がすることやすでにしたことに関する質問です。研究者がその場にいたなら観察したであろう経験、行為、行動、活動などを描写してもらうものです。

例:
「この問題をどのように解いたのか、説明してください。」
「今日の授業をどのように進められたか説明してください。」
「もしあなたの後をついていってそのクラスを参観したとしたら、あなたがどんなことをしているのを私は見ることになるでしょう?」

(2)意見/価値に関する質問 

 これは、当事者の思考や解釈の仕方に関する質問です。彼らがどのような目標、意図、望み、価値を抱いているのかをみるものであり、その人の作りあげる合理性や意志決定のしくみの理解に役立ちます。

例:
「・・・についてどう考えますか?」
「そのとき生徒はどのように考えていたと思われますか?」
「どういうことが起こって欲しいと思いますか?」 

(3)感情に関する質問 

 これは、当事者が自分の経験や考えについて抱く感情を理解するための質問です。もっとも単純な「どう感じますか?」という問いは、しばしば「どういう意見をもっていますか?」に受け取られて、上述の(2)の質問になりやすいので、質問の意図を相手に対して明確にしておくことが必要です。

例:「それについて、あなたはどのような気分や感情をもちますか?」 

(4)知識に関する質問 

 これは、意見や感情とは別に、当事者がどういう事実的知識をどれくらいもっているかを見極めるための質問です。

(5)知覚に関する質問 

 これは、五感に関わる情報を得るための質問です。「同じ」ものについてであっても見たり、聞いたり、触れたりすることから得る情報は人によって異なりうるものです。

例:
「あなたがそのパソコンソフトを起動してから一通り使って終わるまで何が見えるのか教えてください。」
「先生は、あなたにこれを実際にはどう言って説明したのですか?」

(6)背景/人口統計に関する質問 

 これは、当事者の特徴に関することがらを聞く質問です。年齢、学歴、職歴、居住区など、当事者を理解する上での背景的知識を得るような質問です。

質問の順序に関するヒント

(1)始めは現在の事柄に関することを聞く 

 過去のことは思い出す努力を要します。未来のことも想像したり推測したりする努力を要します。それゆえ、話が滞りがちになり、インタビュー全体のペースが重くなりがちになります。現在関わっていることは、リアルで詳細なイメージを持っているので、より正確で詳細でスムースに描写しやすいものです。面接者は、当事者に描写の正確さ、詳細さを適宜促しながら、その答え方やそのペースをインタビュー全体で維持させるようにします。

(2)経験/行動に関する質問を始めにし、意見や感情等についての質問はその後にする 

 意見や感情というものはかなり主観的であり当事者も研究者も明確に把握しにくいものです。そのため、何についての意見や感情なのか、どういうときにそういう意見や感情が強まるのか、などの文脈的情報を得る必要があります。そのため、意見や感情について質問する前に、その文脈を形作っている経験や行動に関する質問をしておくことが役立ちます。

(3)知識に関する質問は、「テスト」にならないようにする 

 知識を問う質問は、テストされているように受け取られて、当事者に恐怖感を抱かせる危険性を持っています。インタビュアーは、「テスト」しているのでないことを明確に伝えることと同時に、当事者とよい信頼関係を築いておくことが大切です。インタビュアーは、基本的には、当事者からその人の生きている世界について教えを受ける「無知な見習い者」としての謙虚な姿勢を保つべきです。

 経験/行動に関する質問をしている中で、さりげなく知識を問う質問をすると、相手も答えやすいでしょう。

(4)背景/人口統計に関する質問は、最小限に止める 

 履歴書を書いたり、国勢調査に回答するときの面倒で退屈な気分は、誰でも経験があることでしょう。同様に、背景/人口統計に関する質問には、普通、退屈で単純な答えの連続になりがちです。それがインタビュー全体の基調になって、当事者が「インタビューはもううんざりだ」という構えを作ってしまっては、あまり有意味な情報は引き出せません。それゆえ、そういう質問をインタビューの始めに全部まとめて長々と行うことは好ましくありません。他の質問と関連させながら随時インタビューの中で聞いたり、あるいは、インタビューの最後に聞いたりするとよいでしょう。

質問に使う言い回し

(1)オープンエンドの質問 

 質的研究におけるインタビューでは、当事者自身の見方・考え方および当事者自身の表現の仕方をとらえることを重視します。したがって、インタビュアーの枠組みや表現の仕方を当事者に押しつけるような質問形式は望ましくありません。
 例えば、典型的なアンケート質問「あなたは、数学の勉強についてどう思いますか?
()非常に楽しい、()少し楽しい、()あまり楽しくない、()つまらない」を考えてみましょう。これは、「あなたは、数学の勉強についてどう思いますか?」という質問だけみると、回答者にかなりの回答の自由を許しているようにみえるのですが、実際は選択肢が予め用意されていて、回答の枠組みや回答の表現の仕方はほとんど決められてしまっています。このように回答の枠組みや回答の表現の仕方がほとんど決められてしまっている質問は「クローズド」(closed)質問と呼ばれます。それに対して、回答の枠組みや回答の表現の仕方を当事者自身が自由に決定できるような質問は「オープンエンド」な質問と呼ばれます。その場合、インタビュアーは、当事者に単にトピック(話題)を提案するだけになります。上の例でいえば、「数学の勉強についてどう思いますか?」とだけ質問するなら典型的な「オープンエンド」な質問になります。
 質的研究におけるインタビューでは、「オープンエンド」な質問を大切にします。これは、当事者の考え方の枠組みを理解することを重視するためであり、インタビュアーの枠組みを押し付ける行為を避けるためです。「オープンエンド」な質問は、一般的には、5W1Hを問う形式をとり、「誰が?」「何を?」「どこで?」「いつ?」「なぜ?」「どのように?」に関する当事者の理解を当事者自身の枠組みで述べることになります。


Who? : 「それはどんな人たちが参加してますか?」
What?: 「みんなで何を話し合ってましたか?」「このやり方について、どう(何と)思いますか?」
Where?: 「どこでそれを聞いたらよいでしょうね?」
When?: 「いつごろからそれは始まったのですか?」
Why?: 「どうして先生はそれを質問したと、あなたは考えましたか?」
How?: 「どのようにしてその答えを見つけたか、教えてください。」

(2)「はい/いいえ」型質問の危険性 

 「クローズド」な質問の最も極端なものが、「はい」「いいえ」のいずれかで答えられるような二者択一型の質問です。これは、「ごはん食べた?」「映画おもしろかった?」というように、日常会話にありふれた形式なため、注意しないと「形式張らない」インタビューで使ってしまいます。日常会話では、「ごはん食べた?」「映画おもしろかった?」と聞いても、「食事」や「映画」を話題に取り上げる程度にしか受け取られないために、「はい」「いいえ」というそっけない返事に必ずしも限定されたりはしません。しかしながら、インタビューでは、「はい/いいえ」型の質問をすると、「クローズド」質問としてそのまま機能する危険性が高いです。したがって、「はい/いいえ」型の質問を多用することは、避けるべきです。
 例えば、研究者
Qが中学生Aに数学の勉強についてインタビューすると仮定します。「はい/いいえ」型質問に終始した場合の展開を見てください:

Q:数学の勉強について聞きたいんだけど、いい?
A:うん。
Q:数学は好きかい?
A:だいたい好き。計算が面倒なのはいやだけど。
Q:方程式の問題は好き?
A:うーん、文章題以外は。
Q:文章題は難しい?
A:うん。難しい。
Q:じゃあ、計算問題ならいいんだ?
A:計算だけならいい。
Q:ふーん、そうなんだ。文章題はなんで難しいのかな?式をどう立てたらいいかわかんないからかな?
A:うん。
Q:文章題で式を立てるとき、まずどうしてる?問題よく読んでる?
A:読むのがめんどくさい。
Q:じゃあ、よく読まないで式立ててるんだ?
A:だって、めんどうだし・・・。
・・・

 このようなやりとりは、大人と子どもの日常会話では十分にありふれたものでしょう。しかしながら、インタビューとしては、失敗です。研究者の質問の方が、圧倒的に発話量が多く、中学生の方は短い答えのみです。そして、中学生はかなり受け身になっていて自分の考えや意見を十分に展開できない状態におかれてしまいます。大部分が研究者の立てた予想の単なる確認になってしまっており、わざわざ中学生に質問した意味が希薄になっています。

(3)前提(presupposition)付き質問

A:「へー、B、料理なんかするんだ?何が一番得意?」
B:「うーん。カレーとか・・・」
A:「どこのカレー?いろんなのあるじゃん。バーモントカレーとか・・・」
B:「わたし、スパイスからつくるんだ。」
A:「ホント?すごーい、本格的!」

 日常会話では、お互いの間に多くの事柄が「自然なこと」として前提されてやりとりがなされています。例えば、上の会話例では、Aは、はじめに「料理のレパートリーの中に一番得意なものがある」と前提してかかっています。そして、Bがカレーと答えると、今度は、「カレーを作るためには市販のルーを使う」ということを前提してBに質問しています。これらの前提は、必ずしもBには当てはまらなかったのですが、世間一般の常識から考えて、それほど不自然な前提ではないでしょう。
 もう一つ例を考えてみましょう。数学教育とは特に関係のない人が数学の先生と話をすると、数学の先生に「私は数学は苦手なんですが、数学はどういうところが面白いんですか?」といきなり聞いたりします。この質問は、

・「数学の教師は数学を面白いと思っている」
・「教師は自分の担当の科目を面白いと思っている」
・「数学には何か面白いことがある」

などを前提しています。これらの質問は「前提付き質問」です。これら前提がどれくらい当たっているかは別として、世間一般では、これはきわめて理にかなった(reasonable)前提です。
 これを、例えば「先生は数学を面白いと思っていますか」と聞いたりして、いちいち前提が当てはまるかどうかを確認してから上記の質問をしたらどうでしょうか。質問が細かくて相手は、尋問されているように感じたり、「なんでそんな当たり前のことをわざわざ聞くんだ」とうんざりしたり、または、「数学が嫌いな不適格な数学教師」であると疑われているのではないかと不安になったりする危険性があります。前提付き質問は、このような危険を迂回して、「数学の面白さ」という話題にすぐに入れるよさがあります。もちろん、もしも質問された先生が「実は、わたしは数学があまり好きじゃないんです。専門は社会科で、数学の免許は副免許なんです。数学の教員の数が足りないので臨時に引き受けているだけなんです」というように、前提が当てはまらないことを表明する場合もあるでしょう。この場合は、反応が意外であるために、それ自体興味深い情報を提供することになるでしょう。
 インタビューでも前提付き質問を利用するとよい場合があります。例えば、以下のような質問は役立つでしょう:

・「数学の授業は、他の科目の授業と比べてどんな違いがありますか?」
 
<---違いがあることを前提にしている。

・「文章題を解くときに最も気をつけていることはなんですか?」
 
<---特に気をつけていることがあると前提している。

・「パソコンを使った授業は、どんなところが楽しいですか?」
 
<---パソコンを使った授業に楽しい面があると前提している。

 ただし、インタビュアーの方から予め前提してかかるやり方は、やはり反応の枠組みを決めてしまっており、押しつけがましくなったり、前提に関する知識をテストされているように受け取られたりする場合もありますので、使いすぎないように注意しましょう。
 世界的に有名なある日本の映画監督に、インタビュアーが「監督にとって、映画とは何でしょうか?」というような質問をして、監督の怒りをかったという話があります。この質問には、「映画とは・・・」という一言で言い表せるという前提があります。人が生涯をかけて取り組んだものをたった一言でくくらせようとする前提(マスコミのレポーターに多い)は、ちょっと安直だったかもしれません。なお、この件は、マスコミのレポーターのインタビューでした。もしも質的研究としてのインタビューであるなら、当事者のさまざまな営みについてのデータ収集とその分析の結果として、「監督にとって、映画は・・・であった」、と質的研究者の責任で結論をすべきものなのです。当事者自身ですぐに明快で妥当な結論がだせるなら、単なる報告であり、研究にはならないでしょう。
 また、「偽りの前提」を利用する質問は、刑事ドラマでは犯人を落とすための質問に使われることでも有名ですが、インタビューでは使ってはなりません:

刑事:先週、Aさんの盛大な祝賀パーティがあって、同僚の方や部下の方もたくさんこられたそうですね。あなたも勿論いかれたんでしょう?パーティはどうでした?

Aの部下のふりをしている犯人:・・・そうらしいですね。残念ながら、急な仕事が入って、わたしは出席できなかったんですよ。

刑事:ほう。実は、パーティなんてなかったんですよ。

(4)一回の質問に一つのことを聞く

 インタビューで何を質問してよいかはっきりしていないとき、しばしば、一度にいくつかの質問を投げかけてしまうことがあります。例えば、次の質問を考えてみてください:

「わたしはグループで問題を解くことについて興味もっているんですけれど、班活動について先生のご意見を伺いたいと思います。先生は、授業でよく班活動を利用されますか?えーと、いろいろ長所や短所を感じておられると思うんですが、そういう点についてもお考えをお聞かせいただければと思います」

 この質問には、少なくとも「班活動についての意見」、「授業で班活動を利用する頻度」、「班活動の長所」、「班活動の短所」の4つの点を尋ねています。こういう質問は、質問される側にかなりの負担を強いるものです:まず、答える間に質問を覚えている努力をしなくてはなりません。次に、どれをどういう順番で答えたらよいのか考えなくてはなりません。質問が多ければ、一度に答える量も多くなり、精神的にも疲れます。こういうときは、回答者は混乱しやすく、回答の仕方も次から次へと項目を変えるために急ぎ足になり、中途半端な答えで終わる危険性があります。また、インタビュアーの方も、相手の話の最中に、いまどの質問に答えているんだろうか、と考えなくてはならず、より緊張を強いられます。さらに、長い回答をフォローするのは難しく、話の大事なポイントをとらえて追求する機会を逃すかもしれません。
 インタビューでは、原則として、一回の質問には一つのことを尋ねることです。そのために、質問の言い回しを予め注意深く検討しておくことが大切です。

(5)明確な質問をする

 インタビューで使う質問は、当事者が何を聞かれているのか明確に理解できるものでなくてはなりません。インタビュアーと当事者の間に円滑なコミュニケーションを築くことは、よいインタビューの基本です。当事者が「一体何を聞きたいんだろう?」と不信感を抱くような質問はすべきではありません。研究者は、通常は研究仲間の専門用語に慣れ親しんでいますが、研究者の専門用語などを使って質問したら、相手は「こんなことも知らないのか」と見下されているように感じて不愉快に思うかもしれません。当事者たちの使用しているコトバやものの見方・考え方を尊重する仕方で、質問するのが原則です。
 当事者たちには、当事者たちの生活の中で利用する特有のコトバ使いがあるものです。当事者に明確に理解できる質問をするには、当事者たちの日常使用しているコトバを予め調べておき、それを利用することが役立ちます。また、インタビューの最中に、相手からどういうコトバ使いをするかを聞き出して、そのコトバ使いをその後の質問に利用していくということも大切です。

(6)「なぜ?」「どうして?」という質問の問題点

Q:さて、どうしてひし形は平行四辺形だと思うのかな?

S1:授業でこの前やったから。
S2:ひし形を倒して横に伸ばすと平行四辺形になるから.
S3:ひし形は向かい合う辺がそれぞれ平行そうだから。
S4:ひし形はすべての辺が等しい四角形なので,2組の向かい合う辺がそれぞれ等しいので,平行四辺形になる.
S5:ひし形は平行四辺形じゃないの? 

 科学的探究では、原因や理由をもとめることは重要な課題であり、「なぜ?」「どうして?」と問うことは大切なことです。しかしながら、Patton(1990, pp. 313-316)の指摘するように、インタビューのときには、不用意にこの問いを発すると、いろいろなレベルの反応が返ってきて分析が困難になることがあります。上の例で見てみましょう。S1は、ひし形は平行四辺形だと思った「動機」や「原因」を述べていると解釈できるし、あるいは「権威づけ」を行っているとも解釈できます。S2, S3は、そのように判断した根拠を述べていると解釈できます.S4は,数学的な証明を述べて正当性を主張しています.S5は、「どうして?」とわざわざ問われたのでの、ひし形が平行四辺形だという考えをインタビュアーが疑っていると思って反論していると解釈できます。
 このような混乱が起こる危険性のあるときは、相手の行った行動の動機や原因が知りたいのか、判断の根拠を求めているのか、正当化を促しているのか,相手の判断の強さを揺さぶってみたいのか、インタビュアーは目的を明確にして、「なぜ?」「どうして?」という言い回しを他の言い回しに代えて、相手に誤解のないように質問する工夫をすべきでしょう(数学教育での臨床インタビューにおけるWhy型質問のあいまい性については,ギンスバーグら(1983)のpp. 31-33でも論じています.Ginsburg, H. P., Kossan, N. E., Schwartz, R., & Swanson, D. (1983). Protocol methods in research on mathematical thinking. In H. P. Ginsburg (Ed.), The development of mathematical thinking. New York: Academic.)。

信頼関係と中立性を築くために

(1)インタビューにおける信頼関係と中立性の維持 

 インタビューは、研究者と当事者の間のコミュニケーションです。よいインタビューは、当事者とインタビュアーの間に信頼関係を築くことによって可能になります。当事者が考えていることを自由に話せるようにすることがもっとも大切です。インタビュアーは、当事者の言うどんなことでも尊重するようにします。
 同時に、インタビュアーは、当事者の発言に対して中立的立場を維持しなくてはなりません。当事者の発言の内容の善し悪しを判定したり、賞賛したり批判したり、喜んだり残念がったりする様子を当事者に対して示すことは慎み、ひたすら当事者の考えていることや感じていることの理解に集中します。

(2)質問の際に回答を例示して説明する方法 

 質問紙によるアンケートを実施したりするとき、単にマルを付けるだけの回答はしてくれても、自由記述で答える欄になると空白のままとか、「別にない」という反応が多くてがっかりする場合があります。同様に、インタビューでオープンエンドの質問を投げかけて当事者に自由に話してもらおうとしても、なかなか回答が出てこないときがあります。こういうときは、回答の仕方の例を、いくつかあげて、回答を刺激することが役立つことがあります。 

例1:

Q:これまで**先生の数学の授業を受けてきたわけだけど、こういう点は変えたらどうかと思うことを自由にいってください。

A:まあ、別にないけど。

Q:何でも構いませんから。もっとゆっくり進んで欲しいとか、もっと速く進んで欲しいとか、もっとわかりやすく説明して欲しいとか、説明はそのままでいいから、もっと練習問題を多く出して欲しいとか、どんなことでもいいから自由に言ってみてください。 

例2:

Q:数学で証明をすると、どういういいことがあると思いますか?

A:どういういいことがあるかですか?うーん・・・難しい質問ですね。

Q:例えば、方程式の場合だと、方程式を使うと、答えが見つけられるというよいことがありますよね。証明の場合、証明するとどういういいことがあるのかな? 

 このとき、回答例の選び方や挙げ方に注意を払ってください。回答例は、質問の意図やコンテキストをより具体的に示したり、回答のレベルや範囲の広さを具体的に伝えたりために使います。あまりに一方向にだけ偏ったものばかり挙げてしまうと、インタビュアーの好みの回答を引き出させる、いわゆる「誘導的」質問になってしまいます。例えば、上の例1では、「ゆっくり」と「速く」、「説明」と「練習問題」というように、バランスをとって回答例を挙げています。もしも、「ゆっくり」と「説明」の方だけ挙げていると、「**先生の授業はペースが速すぎて説明もわからない」という見方を植え付けて、その方向の回答を答えさせようとしているように受け取れます。これは、誘導的になる危険性があります。

(3)具体的な場面設定の利用 

 人は日常では大部分、目の前の具体的、現実的な問題に焦点をあてて考えたり話をしています:今日の天気、午前中にする仕事、家族の相手、昼御飯の準備、友達との約束等々。抽象的、一般的なコトバで考えたり話したりするのはなかなかとっつきにくいものです。それゆえ、質問をする前に、具体的な場面設定を与えておくと、相手が答えやすい場合があります。具体的な場面設定を与える方法としては、代表的なものとして以下の4つがあるでしょう:

a. フィールドの様子を記録したものを利用する方法

 授業の研究などでは、授業のビデオ記録やオーディオ記録の一部を再生しながら、あるいは授業のプロトコルを示しながら、授業のときに考えていたことについて質問する方法がよく使われます。これは、授業の中の特定の場面に関わる質問するのに役立つことは勿論のこと、当事者が自分自身を外側からみる機会になり、冷静に自分の行動を振り返る機会にもなります。
 ただし、機器による再生は時間をとるものです。インタビューに関係するところだけ手際よく抜き出しておく工夫が必要です。また、それらの記録には、インタビューされる本人以外の人たちの様子も記録されていることが多いです。それらをインタビューされる本人に見せても差し支えないかどうか気を付けてください。秘密保持には十分配慮してください。

b. フィールドで従事する課題と同様の課題を利用する方法

 算数・数学の学習に関わる研究では、算数・数学の問題を児童・生徒に実際に取り組んでもらいながら、その途中やその直後にインタビュアーが質問する方法がよくとられます(cf. Teppo, 1998, pp. 40-61)。実際の授業中に児童・生徒が課題に取り組んでいるときに質問する場合もあるし、授業外に別室で課題に取り組んでもらって質問する場合もあります。
 このやり方は、観察とインタビューを同時に行うものです。発話だけでなく、課題に取り組む際に示すさまざまな活動の観察記録もつける必要があります。そして、どういう課題を用いたらよいかを十分に検討することが大切です。
 インタビュアーが児童・生徒の課題解決の支援を随時行う研究方法もあります。そのタイプの典型的な研究は「教授実験」
(Teaching experiment)と呼ばれるものです。これは、児童・生徒の反応の仕方に応じて研究者が課題や教示を随時変えていき、彼らの理解や能力の状態や変容を調べるというものです。この場合は、課題をどういう順序でどういう時点で提示するか、課題の説明をどう行うか、どういう状況でどういう支援をインタビュアーは行うのか、というような点を予め綿密に検討して計画しておかなければなりません。

c. ロールプレイ

 これは、インタビュアーを誰か他の人物であると想定して回答してもらう方法です。

例:
Q:もしも私があなたのクラスに転校生として入ってきた生徒で、数学がすごくできるようになるにはどうしたらよいでしょうかと先生に聞いたとしましょう。先生は私にどうアドバイスしますか? 

 また、これを変形したものとしては、想定される人物とインタビュアーとの対応を明示しない聞き方もあります:

例:
Q:もしも下級生があなたのところに来て、こう質問したとしましょう:「2年生になると数学で証明っていうのを勉強すると聞いたんですが、それはどんなものなんですか?。」 さて、あなたはその下級生にどう説明しますか? 

 ロールプレイを使った算数・数学の課題もよく利用されます。オーストラリアのヴィクトリア州教育局で提案されている筆算に関する第5〜6学年生の評価用課題を見てみましょう:

バートのわり算を助ける

あなたの親友の一人であるバートがあなたにわり算について助けをもとめています。彼はあなたに自分がやったわり算問題を見せています。それらはこのようなものです:

1. まず、バートの答えを調べなさい。もし答えが正しければチェックマークをつけなさい。そうでなければ、正しい答えをその下に書きなさい。

2. バートが正しく答えられるだろうと思う問題でかなりむずかしいものをつくりなさい。彼がどのように答えをもとめるか示しなさい。

3. バートが間違うだろうと思う問題を新たに2つ書きなさい。そして、バートが出す答えをもとめなさい。そして正しい答えを示しなさい。

4. バートがわり算の問題をするときに、彼を助けるためにあなたは何を説明してあげたらよいですか。

5. このページの上にある問題に対するバートの答えのいくつかは小さすぎます。彼の答えを使ってこのことを彼に説明してあげてください。(Beesey et al., 1998) 

 この課題は、この学年レベルにおいてわり算でよく見られる誤りを取り上げており、子どもがわり算の問題をどのように解くのかをみるのに役立つものです。達成度の高さを、子どもが単に計算結果の正誤がわかるかだけでなく、誤りの中のパターンに気づけるか、誤りを克服する仕方を建設的に述べられるか、確かめのための適切な方略を説明できるかによって判断するというものです。回答者は、バートという仮想の子どもの親友の役割を演じることになります。この課題をインタビューで利用する場合には、おそらくインタビュアーが部分的にバートを演じたり、バートを代弁したりすることになるでしょう。

d. シミュレーション

 これは、インタビュアーが関心をもっているある状況を当事者に想像してもらって、そこで起こったり考えたり感じたりすることを話してもらう方法です。 

例:
Q:私が先生の授業の始めに教室にすわっていたと想像してください。授業開始の時間から15分間の間に、どんなことが私の前で展開するか説明してみてください。先生はどういうことをしていますか、生徒たちはどんなことをしていますか。 

(4)質問の前に「前置き」する方法

 インタビューにおいて新しい話題を導入したり、一つの話題を終えて別の話題に移ったりするときに、前置きをします。これは、当事者側に質問される話題について注意を喚起し集中させる効果があります。同時に、当事者側に回答を頭の中でまとめるための時間的余裕を提供する機能があります。前置きの仕方にはいくつかの種類があります:

a. つなぎ

 これは、前の話題を終えながら新しい話題を予告するパターンです。

例:
「これまでは先生のことについてお話を伺ってきたのですが、さて、今度は生徒のことについて伺いたいと思います。このクラスについては、全体的にどのように思われますか?」

b. まとめながらのつなぎ

 前の話題を終えるときに、前の話題について当事者の回答を手短にまとめることをしておくのもよいでしょう。このまとめのとき、当事者が言及し損なったことがあるかどうか確認することが大切です。同時に、これによって、インタビュアーが記録し損なったことがないかどうかも確認できます。

例:
「これまで、数学の授業でのパソコン利用の仕方についてお聞きしました。それぞれについての細かい点に移る前に、ちょっと確認させてください。一つは、***、二つ目は***。三つ目は***。その他の仕方が特にございましたらおっしゃってください。」

c. 予告

 これは、前の話題についての言及を省略して、単刀直入に次ぎの話題が何であるかを予告してから、質問するものです。

例:
「さて、今度はこの学習を通じての生徒たちの変化について伺いたいと思います。(間をおく)このクラスの生徒たちについては、この学習を通じて全体的にどのような変化がみられたと思いますか?」

d. 注意喚起

 これは、質問する前に、その質問内容の重要性、答えにくさ、その他質問の性格などを知らせて、相手の注意を喚起するものです。

例:
「次の質問は、特に私の研究にとって重要になるんですが、***についてどのように感じておられますか?」

例:
「これは、先生の全く個人的意見で構いません。***についてはどう思われてます?」 

(5)フォローアップ質問

 当事者が述べた回答の後に、それに関連した点をさらに質問することをフォローアップ(follow-up)質問といいます。フォローアップ質問をすることによって、より豊かなデータを引き出すことが可能になります。他方、相手の回答を聞き流していては、フォローアップ質問はできません。相手の言ったこと及び言っていないことに注意を集中して、その場で分析を行わなければならず、インタビュアーの技量や経験が関わる難しいところでもあります。 フォローアップ質問は、相手側の回答の不十分さを指摘するような調子にならずに、あくまでもインタビュアー側の理解不足を認める謙虚な姿勢で行うように注意してください。この技術は、質問紙調査の後に、その回答の理由や背景を理解するためにインタビューを計画するときにも応用できます。

 フォローアップ質問のいくつかのタイプを挙げておきましょう。

a. 5W1Hを聞くタイプ

例:
「それはいつ起こったんですか?」
「どのようにしてそれは起こったんですか?」

b. より詳細な説明を促すタイプ

例:
(軽くうなずきながら)「ふんふん。」
「その点をもう少し詳しく説明していただけませんか?」
「なんとなくはわかるのですが、もう少しおっしゃってくれませんか?」

c. 明確化を促すタイプ

例:
「いまおっしゃられたことはたいへん大事なことかと思います。もう一度今の点を繰り返してお願いできますか?」
「すみません。ちょっと待ってください。えーと、なんとなくはわかるのですが、その点をもう少し具体的にお話しいだだけますか?」
「先生、『証明のコツ』、とおっしゃられたのですが、『証明のコツ』というのは、今ひとつわからないのですが・・・(間をおく)」

d. 比較を促すタイプ

例:
「今話してくれた中学での数学のことを、小学校のころの算数と比べるとどうかな?どういう違いを感じるかな?」
「今日は
TTで2コースに分けて2つの教室で授業されたんですが、コース分けしないときの授業と比べてどうですか?」

インタビューのコントロール

 インタビュアーは、インタビューの最中に常に、相手の回答の内容や回答の仕方を吟味していなくてはなりません。インタビューは、研究のデータ収集の一環としてつねに明確な目的を持って実施されます。インタビュアーは、インタビューの最初に、当事者に対して、インタビューの目的と内容についてきちんと説明をして、誤解を招かないようにしておくことが基本です。しかし、いくら注意深くインタビューを準備してきても、当事者がインタビュアーの質問に対して不適当は回答をする場合は頻繁に起こります。そのまま自由に話させていては、研究に何の役もたたないデータばかりになってしまいます。「さんざん話したのに無駄だったのか」と、相手に不愉快な思いをさせかねません。インタビュアーも当事者もお互いに貴重な時間を使っているので、これはお互いにとってもったいないことです。それゆえ、インタビュアーは、インタビューがうまくいっているかどうか、つねに吟味して、必要があれば、軌道修正を行わなくてはなりません。

(1)インタビュアーの質問に適格に相手が答えているとき 

 インタビュアーは、相手が質問に適格に答えていることを、随時、相手にフィードバックことが大切です。さりげなくそれをする方法としては、例えば、軽くうなづいたり、「なるほど」「ふんふん」と相づちを打ったり、メモを取る仕草をしたりするのです。もちろん、コトバで明確にフィードバックすることも大切です:

例:
「こんなにはっきりと説明していただいて、本当に助かります。」
「貴重なお話が聞けて、いろんなことがわかってきたように思います。助かります。」 

(2) インタビュアーの質問に相手が適格に答えていないとき 

 相手に失礼にならないようにうまく、相手が一息ついたタイミングなどを利用して、すばやくインタビューの流れを変えなくてはなりません。いくつかのやり方があります。

a. 話題を変える質問を利用する方法

 これは、前述の「前置きする方法」を利用して、話題をもう一度インタビュアーの聞きたいことへ移行させるものです。

b. ジェスチャの利用

 うなづくのを止める、相づちを打たないで沈黙する、メモを取るのをやめて前のページをめくるとか、さりげなく「いまおっしゃっていることは私の聞きたいことからはずれていて私は困っている」という暗黙のメッセージを送る方法です。

c. フォローアップ質問を利用する方法

 フォローアップ質問は、相手に対して「あなたの話を私は真剣に聞いています」というメッセージにもなります。それゆえ、これを利用すると、話を遮ってもそれほど相手に不愉快な思いをさせないですみます。

例:
「ちょっと待ってください。その点はまたあとでお聞きするとして、まず先ほどの点をもう少しはっきり理解したいと思います。」

インタビューの事例研究

インタビューは,実際に他人に対してインタビューを実施して,そのデータを分析し,やり方を見直す,という経験を積み重ねていって上達するものです.これまで論じた点を頭でわかってはいても,実際にそれをデータ収集現場で的確に生かすことは必ずしも容易ではありません.教育研究でもインタビュアーを事前にトレーニングしておく必要がある場合があります.また,自分自身のインタビュー経験だけでなく,他の人のインタビューの様子をみて,そのうまい点やうまくいかなかった点を検討するのも自分のやり方を振り返るのに役立ちます.ここでは,実際に行われたインタビューからその一部を取り出し,インタビューのやり方について具体的に考察してみましょう.

 

事例 1 あまりうまくいっていない事例

 

以下のインタビューデータは,私も参加していた,授業に関する比較研究の場で実際に行われたものからとりました.中学生(S)を相手に,その日に行われた数学の授業について聞いています.20分ほどのインタビューの最後の部分です.インタビュー全体については決して失敗というわけではないのですが,この最後の部分は,あまり成功していません.察するに,生徒からの反応の少なさに困ってしまったか,あるいは,時間切れがせまってあせってしまったのかもしれません.インタビューとして,どういう問題点があるか,話し合ってください.

 

INT(インタビュアー)                  じゃあね、今日の1時間、50分の授業の中でSさんは何を勉強しましたか?何勉強しましたか?この50分の中でなんかSさん変わりましたか?変わった?なんか勉強した?してない?

S             した。

INT         した。何をしましたか?なんもしてない?特にこの授業50分の中で、なんも勉強してなかったのかなぁ。

S             したけど、/

INT         したけど。したけど、したけどなんだろう。したけど、特に目新しいことはしてない?

S             あんまり覚えてない。

INT         あんまり覚えてない。きょうはね。特に覚えることも覚えてないし、わかりました。

S             「笑」

INT         そういう授業もあるかもしれないですね。はい、じゃあ今日の授業は、えーSさんにとってはいい授業でしたか?別によくないかな?って思ったかどっちか。どうでしょう。今日の授業は、いい授業でしたかねぇ。いい授業でしたか?どの辺がいい授業だった?イヤーいい授業だった、今日よかったなぁと太鼓判押す?Sさんは。どの辺がいいと思ったでしょうか?

S             あんま、頭を使わなかった。

INT         あんま頭を使わなかったの今日は。いい授業のときは、Sさん頭使わない?わかりました。じゃあ今日、そうするとうん、一つの質問をしたいと思います。今日の授業で限らずでいいです。数学の授業、いつもの数学の授業のときにえー勉強した方がいいなぁと思う大切なことがら、ってなんでしょう。数学の授業で勉強する、これ大切な事何でしょう。英語じゃなくて、国語じゃなくて、理科じゃなくて数学の授業の中では、大切な勉強するべきだと思うような大切なことがらって何でしょう。Sさんにとって。数学の授業の中でなんか大切な事、これ勉強してよかったって思えるような大切な事って何でしょう。ないですか?数学の授業は、後ろでぼーっと聞いてればいい?うん。なんか大切なことがらってないかなぁ?数学の授業で、特に数学に限って言うと。学ぶ、これ勉強するべきだーって言うような大切な事はない?

S             計算。

INT         計算。まぁ計算は大切だ。ほかにない?なければなしでもいいんだけど。計算。計算、今日は少しはしたけどね。ほかに数学の授業では、なんか勉強して、これ大切だなぁって思うことはない?計算?理科も計算するよ。国語は計算しないけど。英語は計算しないか。数学は計算すればいい?と思う?なんかほかに大切な事ないかなぁ?計算は確かに数学の中でよく使うし、大切な事です。間違ってしまうと困ります。ほかになんか大切な事はないでしょうかねぇ?

S             図形。

INT         図形。図形が大切ってすっごいこう大きい言いかたしたねぇ。図形は大切?図形の勉強は大切。なぜ?どのへんが?どの辺が図形の勉強大切でしょうかねぇ?図をきれいにかくこと?じゃないと思うんですが何でしょう。何で図形も勉強大切なの?何か大切だと思った?わかりました。

S             「笑」

INT      じゃあ、最後の質問です。えー今日の授業は、いつもの図形の授業と同じでしたか?違いましたか?同じだったらどの辺が同じか。違う場合はこの辺が違うなぁと簡単な説明でいいです。同じでしょうか?違ったでしょうか?いつもと。

S             同じ。

INT       同じでした?どの辺が同じって言い方できますか?うーんなんとなく同じ?違いは全然なかった?いつもと?普通に図形の授業だったと思う?どの辺がおんなじなんだろうねぇ?同じように思った?うん、計算もして、図もかいて証明もちょっとして、特に変わったことはなかったと思った?はい、わかりました。いいです。わかりました。じゃあいいです。じゃあ今日は、これでインタビューを終ります。

 

事例2 比較的うまくいっている事例

 

以下のインタビューデータも,私も参加していた,授業に関する比較研究の場で実際に行われたものからとりました.中学校数学科の教師(T)に,前日に行われた数学の連立方程式の授業について聞いています.30分ほどのインタビューの最初の部分です.

 

INT            まず、その授業のねらいについて

T                そこは、あのー一応あのー1つは方程式と言うもの自体が、非常にそのー非常に難しい(概念ですよね。)そのー単純に解ければいいという発想だけじゃなくて、やっぱり、あのー少し考えなければいけない要素があるっていうことは、伝えていこうという意識が合ったんですね。で、実際彼らは、すこし最初の授業、まぁこの授業のビデオ[註:比較研究で行ったビデオ撮りを指す]撮る前の段階で、ちょっと様子を見てたならば、まぁ単純な方程式の一年生のときの方程式の、あのーまぁ式は括弧なんかがついたりしていて、

INT            ええ

T                複雑なんですけれども、その辺の問題をちょっと解かせてみると、だいぶんできるんですよ。その中でちょっと聞いて見ますと、塾で連立方程式なんかもずいぶん勉強している。

INT            ああ

T                っていうこともあるので、それならば、あのー少し頭の中を形式に解ければいいという認識が強いので、それをかき回そうという

INT            ああそうですか。

T                いうことがかなり意図的に、やってたわけですね。

INT            ああ

T                で、そういう意味で、あの形でとるとだいたいあのー(授業全部含めて)前の時間ですね。えーおちいったような状況がでてくるので、こういうのはどうなんだろうっていう考えるきっかけを作ろうっということが狙いだったんですね。で、まぁあそこあんまりクローズアップしすぎますと、中学校2年生のなりたての子達なんで、

INT            ええ

T                まだ、非常に厳しいところが、少なくとも連立方程式の意義までは、とらえさせようかなと。

INT            意義?

T                意義。意義です。ああ意義なくて意味ですね。

INT            意味。

T                意味ですね。方程式の解の意味ですね。

INT            ええ。

T                そこを彼らにつかませるということを目標にしたと。でまぁ、あのー単純に恒等式の形になって0イコール0とかいう、というところでは、等式に使われてある方程式は実際1つなんで、()。2個使ってないじゃないかというところに話を落とし込もうとしたわけです。

INT            そうしましたら、えーとまぁそれとも関連するんですけれども、その、その授業の内容が、あのー生徒にとって、生徒から見たときに、それを勉強する、学習することが、あのーなぜ大事なのかという、ことについてお話しいただければと思うんですけれども。

T                あのーそれは、生徒の方が、大事だか大事でないか理解できたという?

INT            ということもそうですけど、先生から、見ましてこの内容を生徒には、こういう価値があるからとか、こういうことが大事だから、勉強してほしいというような、ねらいとももちろん直結するんですけれど。

T                わかりました。えーと、一番大きいことは、今日の授業でも言ったんですけどね、方程式の解ってなんなのかという、ことを明確にしていきたいという。

INT            ええ。

T                いうことです。で、方程式の解も、もう1回今日の授業で確認しましたけれど、あのー2つの21次方程式のどちらも満たす

INT            はい

T                解の組が、与えられた解なんだと。いうところの認識ですね。えーあそこの文章そのまま読めば、日本語としてはそんなに難しい所はないので、簡単に、理解できてると思いますけどね、意味まで、たとえばあのー方程式の、今日やったのは、方程式が成り立つという

INT            ええ

T                とはなんだろうっていう話。で、それから、えー昨日の段階で今それ、方程式の解ってなんなのか、そういう所をもう一度きちっと吟味をして、えーまぁ彼らのレベルでいうとおそらく方程式の、形式的に解く段階までは、非常にレベルが高い段階だと思いますので、

INT            ええ

T                その前に、その意義を、その意味をきちっと捉えさせて、えーこの先、方程式の解法でやっていく自分の計算のプロセスのえー意味ですね。

INT            ええ

T                今、自分がなにをやってるのか明確につかませたいということが、一番大きい所だったんです。

INT         はい、わかりました。

 

インタビューの記録

インタビューによって得られるデータをどのように記録するか。その具体的に手法は、入門編ステップ4の観察記録のつけ方と原則的には同じです。インタビューも人間行動の観察だからです。したがって、インタビューの記録は、

(i)インタビューの日時と場所
 インタビューの場所や建物、机や椅子の配置等についての様子を記録します。
(ii) インタビュー対象
 研究対象とする人々の年齢、性別、職業、服装、態度等の情報を記録します。
(iii) インタビュアーの行動
 フィールドで観察者がどういう格好で、どこにおり、どういう役割を演じていたかを記録します。インタビュアーの発したコトバは記録します。
(iv) インタビュー中の活動や出来事
インタビューの最中に行われた活動や出来事を記録します。教科書や答案などを参照する活動があれば、それを記述しておかないと、後で、会話の中で指していた事柄が何かわからなくなってしまいます。また、インタビューの最中に、外部からの中断があったりすれば、それも記述しておきます。そして、インタビュー中の表情や声の調子も、必要があれば記録しておきます。
(v) 会話
 インタビューの中心的データであり、インタビューの間に交わされる会話をコトバ通り記録します。

 このような記録を、インタビューを実施している最中にすべて記録することは通常は無理です。相手が、メモを取れる速さで話してくれるわけではありません。さらに、たとえば、フィールドで立ち話をする形で起こったインタビューの機会などでは、ノートにメモする余裕さえないし、たとえメモをもっていても、メモする行為自体がその場の気軽な雰囲気を壊してしまう危険性があり、メモを取ることが望ましくない場合もあります。それゆえ、通常は、インタビューの最中は、せいぜいメモをとるだけにしておきます。メモもとれない場では頭に記憶するだけにして、インタビュー終了直後に、見えないところですばやくメモをとっておきます。そして、フィールドを離れた後に、時間をかけてインタビュー記録を作成します。そのときには、インタビューについて気づいたことを、観察ノートと同じく、「意見・解釈」として、インタビュー記録とは別に記述しておきます。これらの作業は、観察ノートの作成の場合と同様、インタビュー終了後に、できるだけ早く行うことが大切です。テープレコーダ、ICレコーダ、ビデオカメラ等の機器にインタビューを記録できれば、非常に役立ちますが、やはり、後日の分析作業のために、それらのデータを文書化しておかなければなりません。

さまざまなインタビュー手法の創造

 インタビューの手法は研究の目的や現実的状況にあわせて工夫し、独自のものを考案して構いません。新たな手法を開発するのを恐れる必要はありません。どんな手法にも、データの信頼性や妥当性に関して、長所と短所があります。大切なことは、それぞれの長所、短所を注意深く検討し、両者のバランスをどのようにとるか(trade-off)を研究者がつねに明確にし、自分の理解したい現象についてのデータが得られるかどうかを検討しておくことです。以下に、伝統的手法ではないけれども、インタビューの手法として最近よく利用されるものを挙げておきます。

(1)フォーカス・グループ・インタビュー(focus group interviews)

 これは、特定の話題について少人数のグループを相手にインタビューをするものです(詳しくは、Krueger, 1994; Morgan, 1988)。社会科学におけるデータ収集手法として開発されたもので、例えば、消費者の商品選択の仕方、映画鑑賞者の評判、選挙民の政治的意見など、さまざまな社会的行動について調べるのに役立ちます。この手法は、人々の意志決定の多くは周りの人々との会話の中で形成されていくという認識に支えられており、グループでインタビューすることによってより実状に即した正確な情報が得られるという見解に立っています。 インタビュアーは通常、グループの話し合いの進行役をつとめて、議論を促したり、質問を投げかけたりします。グループの構成メンバーは、共通の話題について話し合えるような背景をもっている人々を選びます。
 フォーカス・グループ・インタビューの長所としては、まず、数人を一度にインタビューでき、一度に多くのデータを集められるため、効率的であることです。また、話し合いをもつことによって、単純な勘違いや極端な見方を抑えることができ、ある程度代表的で共通性のある意見が得られるよさがあります。
 他方、短所としては、グループ全員の話を聞くと時間がかかり、あまり多くの問題を議論できないことがあります。さらに、特定の人ばかりが話さないように、インタビュアーが注意深く進行をコントロールしなくてはなりません。また、人前では話しにくいような情報を得にくくなり、秘密保持もグループ内の他の人に聞かれてしまうため難しくなります。
 このような長所と短所を考慮した上でなら、新しい教育プロジェクトやカリキュラムの評価のために、それらの実施者たちのインタビューに利用したりすることができるでしょう。
 例えば、ランパートら(Lampert, Rittenhouse, & Crumbaugh, 1996)の研究では、小学校5年生でのクラス討論が報告されています(pp. 740-744)。そこでは、フォーカス・グループ・インタビューに近い手法がとられています。彼女らは、実際の小学校のクラスにおいて児童たちの数学的議論を育成する教授実験を展開しており、児童たちが数学的議論(discussions in math)に対してどのような考え方や感じ方をしているかに関心をもっていました。そこで、教授実験を始めて半年ほどたった時点で、彼女らはそのクラスで、「数学での議論」についての話し合いをもちました。授業者であるランパートが注意深く話し合いをコーディネートし、児童たちの以下のような意見を浮き彫りにすることができました:

・議論で自分の考えの間違いを指摘されると恥ずかしいので、議論はいやだ。
・他の子も同じ答えを得ているときに、自分だけ先生の指名を受けて答えを発表すると、他の子が「わたしの答えを横取りした」と言って、いじわるするから、議論はいやだ。
・小グループでの議論では答えを間違っていた子らが、答えが合っている子をからかってとりつくろうから、いやだ。
・小グループの議論の方が、自分が間違っていても、それを指摘する人数が少ないから、いい。

(2)ペア・インタビュー 

 問題解決過程の研究などでは、生徒2人一組を選んで一つの課題に取り組ませてみて、その解決過程における思考を分析したりすることがあります。数学教育では、シェーンフェルドの研究が有名です(詳しくは、Schoenfeld, 1985, pp. 281-282)。この手法の長所としては、まず、2人の方が、たった一人で取り組むときよりも、生徒が感じるプレッシャーが少ないことです。さらに重要な点は、2人で話しながら進めさせると、生徒が頭の中で考えていることがより明確に言語化されて、分析しやすいことです。認知心理学の研究手法に、被験者が頭の中のことを言語化しながら思考を進める 「発話思考」(thinking aloud)があります(Ericsson & Simon, 1993)。発話データが得られるため、思考過程がより正確に理解できるものとして重宝なものです。2人一組でいると、この発話思考がより円滑に行われるようです。
 他方、短所としては、2人の間のやりとりにより、単独で問題解決に取り組んだときとは違うものになってしまう可能性があることです。また、一人の生徒ばかりがほとんどのことを行ってしまう場合、もう一人についてはほとんど情報が得られなくなったりします。 

参考文献

*質的研究法関係の文献については、講座全体の参考文献リストのページに掲載されています。

Bessey, C., Clarke, B., Clarke, D., Stephens, M., Sullivan, P. (1998). Effective assessment for mathematics. South Melbourne, Australia: Addison Wesley Longman.

Ericsson, K. A. & Simon, H. A. (1993). Protocol analysis: Verbal reports as data (rev. ed.). Cambridge, MA: The MIT Press.



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