空中写真25.jpg (47406 バイト)中海マッドランプの発生

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19913月,島根県中海に注ぐ飯梨川デルタの沖に,2つのマッドランプ島が現れた.河口を閉塞する砂嘴の開口部から50mほど沖に湖底から10mほど隆起し,同時にデルタとの間の湖底が数m沈降した.水面下を含めたマッドランプの平面形態は,デルタフロントを中心とする長さ約150mの緩やかな弧を描いている.島のボーリングにおいて厚さ7-8mの同一層準が2回繰り返して出現していること,下部の泥層が水平なのに対して上部が傾斜していることから,泥層が逆断層で乗り上げていると考えられ,地形変化と合わせ考えると,この上部の泥層はデルタ側に傾斜していると考えられる.河口では,年間を通じて沿岸標砂が砂州および砂嘴となって河口を閉塞している.出水時にはその一部が破壊され,その開口部に砂の供給が集中する.過去の例も含めて2月頃形成される場合が多いのは,その時期が湖水面の低下期に当たっており,デルタの成長が最も速くなっている.即ち,デルタの砂質堆積物の荷重によって泥層に円弧状の滑りが発生し,デルタフロントが沈降するとともに,沖側の泥層が隆起してマッドランプを形成したというモデルを考えることができる.ミシシッピのSouth Pass建設が,数多くのマッドランプを形成させることになったのと似ている.

halfblock2000.gif (114914 バイト)  マッドランプは従来ダイアピルの一種と考えられていたが,島根県中海の飯梨川河口に出現したマッドランプでは,この解釈に矛盾する事実が少なくない.即ち,・隆起部が湖側に凸の弧を描いている,・マッドランプの隆起に伴ってデルタ側が沈降した,・内部に逆断層による地層の繰り返しがあり,泥層の上半部が傾斜している,・比較的短期間に形成され,停止した,・露頭では顕著な流動はなく層理面が保存されている.

 これらの事実は,ダイアピルのような流動変形ではなく,後方回転を伴う滑りで形成されたと考えれば説明できる.即ち,厚い完新世の泥層に砂質デルタの荷重が加わったために,円弧滑りを起してデルタフロントが沈降しその前方に湖底の泥層が隆起したと考えられる.

 圧密実験結果からは,デルタの成長が速い場合,下位の泥層の圧密が追従できず,従って間隙率が減少せず強度の増加も遅れて不安定になることが示された.円弧の位置を推定して,極限釣り合い法で試算した結果,非排水剪断実験から求められた滑り面の剪断抵抗が,外力としての砂質デルタ荷重に匹敵しており,力学的にも円弧滑りモデルで説明できることが示された.いったん滑り面が形成されると,抵抗が減少すると同時に,砂の供給が続けば荷重はさらに増大する.その結果,デルタフロントが大きく沈降し,その前面にマッドランプが隆起するに至ったと考えることができる.

 このようなマッドランプの形成には,(1)厚い軟弱粘土層に対して(2)急速なデルタ荷重の載荷が必要と考えられる.マッドランプはミシシッピデルタ以外に報告例がないが,デルタの下位に厚い粘土層があるという地域は少なくないから,むしろデルタの成長速度が重要な要因であろう.

 飯梨川デルタは,前方に突出した形態をもつと同時に,成長速度が平均12.5m/yと非常に大きい.前面が河口を閉塞する砂嘴に囲まれており,その開口部に砂の供給が集中する.デルタ堆積物が花崗岩起源の砂を主体としており,泥に比べて単位体積重量が大きい.さらに,過去の例も含めて2月頃形成される場合が多いのは,湖水面の低下期に当たりデルタの成長が速いためと考えられる.こうして,集中的な急速載荷条件が実現されたと考えられる.また,直線的な河道の固定や,堆積盆の水深も一因となるであろう.