第5回 植物の生育状態の計測と診断(2)

1.植物群落における生産構造の解析
 植物は,ポットなどに栽培されている状態は別として,通常は群落(個体群)として圃場で栽培されることから,その生産力は群落状態における生産が問題となる。圃場に栽培された作物は,生長するにつれて大きくなり,やがて発達した群落を形成する。群落における葉の分布,茎や葉柄の形状,穂などの着生位置は種や品種によって異なり,各器官の垂直分布は固有の構造を示している。
 このような器官の垂直分布は,群落構造または生産構造と呼ばれ,同化器官(葉,場合によっては葉以外の緑色部分も含まれる)非同化器官(茎,葉柄,葉鞘,穂,莢など)の垂直分布を1m2当たりの乾物重で示したものを生産構造図と呼んでいる。とくに,同化器官である葉の形態や分布構造は,群落内部への光の透過と密接に関係しており,光の透過特性を通じて群落生産力を大きく規制するすることから,群落構造の解析は生産力を理解する上できわめて重要である。
 この光合成・非光合成器官の空間分布とそれによって規制される微細環境との相互関係は,植物−環境システムを形成し,群落の機能の中心である物質生産を規定していると考えることができる。物質生産の基礎となる光合成に最も支配的な環境要因は太陽放射であり,この太陽放射はまた群落内で光合成・非光合成の空間的な配置の影響を最も受けやすい。
 この点に着目して,葉の空間的な配置が植物の種によって異なり,個体や群落の光合成活動を理解するのに重要であることを指摘したのはBoysen Jensen(ボイセン・イェンセン, 1932年)である。彼は,思考実験を行い,葉面積が土地面積の数倍に茂っている時は,水平な葉群からなる群落は群落全体の光合成に不利であることを指摘した。また,葉の配列に関するこのような性状をBoysen Jensenは同化系と呼んだ。しかし,同化系の解析を定量的に行うまでには至らなかった。

図1 葉群の配列の模型(Boysen Jensen, 1932)

 図1では,上と下の配列は同じ同化面積を持っているが,表面の向きと相互位置が異なる。光が上方より入射する場合,下のほうが同化量が大きい。
 この関係を定量的に捉えるため,Monji and Saeki (1953) は,層別刈取法を開発した。ここでは,門司・佐伯により確立された層別刈り取り法による群落構造の解析法と光の透過の難易を示す吸光係数の測定法について述べる。

1)層別刈り取り法
 層別刈り取り法とは,一定面積内(0.3〜1m2の四方枠内)の植物群落をその高さに応じて一定の層(5〜20cm)に分けて刈り取り,葉面積を測定するとともに,同化器官と非同化器官の乾物重を測定し,それらの量の垂直分布を求めるものである。
 まず,対象群落の代表的な場所を選び,ボーダー部分を取り除いた後,一定面積内の植物群落をハサミなどを使って上部から順次層ごとに刈り取る。層の厚さは10cmが基準であるが,トウモロコシのような草丈が高い群落では20cm,匍匐(ほふく)する草型では5cmで行う。刈り取りは,あらかじめ層の厚さに応じた幅約30cmのはしご状の枠構造を作っておき,これを圃場に立てて行うと便利である。刈り取りに際しては,群落構造を乱さぬように丁寧に行い,葉が湾曲して2層にまたがる場合は,それぞれの層に刈り分けるほか,各層の枯死部(地際の落葉を含む)を回収する。

図2 多点棒状日射計を用いた群落内の日射環境の測定模式図

写真1 棒状光量子センサを用いたイネ群落の光環境の測定(省略)

 刈り取り後,層ごとに器官別に分け,乾燥した後に乾物重を秤量する。また,葉については乾燥する前に葉面積を測定しておく。このようにして得られた層ごとの器官別乾物重を1m2当たりに換算して,同化器官,非同化器官に分けて生産構造図を作成する。正式には,下図のように右側には乾物重(kg/m3),左側には葉面積密度(LAD,m2/m3)を描く。


図3 草本群落の生産構造にみあっれる2つの型(Monsi and Aaeki, 1953)
(斜線の部分は枯れた葉,黒の部分は他の種)


2)吸光係数とその測定法

 門司・佐伯は,光が葉によって吸収されていゆく過程は,次のような法則性が存在することを見出した。群落内のある高さの光の強さ(I)は,それより上にある葉の総葉面積(積算葉面積指数,F)によって決まり,群落上面の光の強さをI0とすると,その関係はI/I0=e-KFまたはloge(I/I0)=-KF (eは自然対数の底)で表される。すなわち,群落内部の相対照度(I/I0)の対数と上面からの積算葉面積指数Fとの間には直線関係が成立し,光の透過の難易はその勾配Kによって表される
 Kの値は吸光係数と呼ばれ,種や品種に固有な葉の配列,形,大きさ,角度などによって変動し,一般に長葉で葉が立っているイネ科植物では0.3〜0.6広葉で葉が水平なマメ科の畑作物やバレイショなどでは0.7〜1.2の値をとる。

図4 群落内部の相対照度(I/I0)の対数と上面からの積算葉面積指数Fとの関係

 吸光係数は,層別刈り取りを行う前に,対象とする群落の上面を高さごとの光の強さを測定して求める。光の測定は,通常,光合成の有効波長域に近い照度計光合成有効放射計光量子センサを用いる。センサの大きいものは,牧草群落や葉の重なりが著しい群落では,葉の自然な分布状態を乱す恐れがあることから,一般的には棒状タイプのセンサ(光量子センサ)や群落相対照度計を用いる。群落相対照度計は2つのセンサからなり,一つを三脚で群落上部に置き,もう一つのセンサを群落内に挿入し,相対値(%)を読み取る。実際には,先に述べたはしご状の枠構造を支点として棒状センサを挿入して,水準器で水平を保ちながら,高さごとに照度(光量子束密度)を測定する。
 直射日射の条件下にある晴天日では,太陽高度(入射角)によって相対値が変化し,変異も大きいことから,光合成が活発な南中時を中心に測定し,測定点数も多くする必要がある。散乱日射の条件下にある曇天日では,あまり測定時間を選ばないが,作物によっては晴天日に測定した場合に比べて相対値がやや高い傾向にある。
 草高約90cmのバレイショ群落を対象に,高さ10cmごとに層別刈り取りを行った場合の群落内相対照度と積算葉面積指数の関係から,直線回帰式を求めて吸光係数の値を計算してみると,loge(I/I0)=4.6885-0.7585Fとなり,吸光係数は約0.76と推定される

表1 群落内各層の相対照度と積算葉面積指数(バレイショ)


3)生産力からみた群落構造の解析
 生産構造図は,縦軸に地表からの高さをとり,横軸には左側に各層内の光合成器官の量または葉面積(普通は,単位面積当たりをとる),右側には非同化器官の量を横向きで柱状図で表したものである。物質生産を行うための植物群落の構造,すなわち生産構造を表していると考えられるので,生産構造図と呼ばれている。また,図中には群落上面での光の強さ(照度)を100%として,群落内の各層での照度(光量子束密度)の相対値が示されており,層別の各器官の分布と光環境との関係がよく理解できる。
 一般に,草本群落の生産構造は,広葉型とイネ科型の2つのタイプに分類される。広葉型群落では群落の上層部に葉群が集中し,非光合成器官は下層ほど多い。イネ科型群落では葉群が比較的下層に分布し,非光合成器官も最下層の近くで急に大きくなる特徴がある。
 出穂後約1週間目のオオムギと幼莢期のダイズの生産構造図をみると,オオムギの光合成系は下層ほど葉の分布割合が大きい三角形型の分布構造を示し,光は比較的深くまで透過しているが,この時期では下層の葉はかなり枯れている。また,群落上面に分布する穂によって,約40%の光が吸収されている。オオムギでは芒を含む穂が葉と同様に活発に光合成作用を行い,子実生産に大きく貢献しており,穂が光の良く当たる群落上部に分布していることは,光合成にとって有利に作用している。
 一方,ダイズの光合成系は上層ほど葉が多い逆三角形型に近い分布構造を示し,オオムギと異なり光は群落の中ほどではほとんど吸収されている。このような構造は一般に「天井型」と呼ばれ,マメ類などの葉の大きい作物に多くみられる構造で,光が下層まで届かず,光の透過が群落光合成の一つの制限要因となっていることが理解できる。

図5 オオムギとダイズの生産構造図(中世古)

 非光合成系の内,稈(茎)や葉鞘(葉柄)の占める割合は,一般に下層ほど大きいが,オオムギやダイズの光合成系と非光合成系を比較してみると,オオムギの稈と葉鞘部はダイズの茎と葉柄に比べて著しく大きい。
 群落構造,とくに葉の垂直分布構造(葉群構造)は,種によって異なり,チモシーの楕円形型,トールフェスクの三角形型,ペレニアルルライグラスの逆三角形型,メドーフェスクの均等型などに大別され,その構造は光の透過特性と密接に関連している。葉群構造は,また種ばかりでなく品種によっても異なるほか,栽植密度や施肥量の違いによっても変化することから,群落構造や吸光係数を測定しておくと,生産力の差をよりよく理解することができる

図6 イネ科牧草の生産構造図(楠谷ら,1971)

2.植物群落における幾何学的構造の解析
 植物群落に降り注がれる太陽エネルギーは,葉に吸収される一方,その一部は葉面で反射され,一部は葉を透過する。この関係は葉を中心に考えれば,葉面への太陽エネルギーの入射角度と葉の特性によって決まる。したがって,太陽の入射角度を固定して考えれば,葉面の向きと大きさ,葉の空間的分布によって,葉面に到達する太陽エネルギーが求められる。このように,太陽エネルギーの吸収体である植物器官の表面積の空間的配置構造によって,太陽エネルギーの群落内分布が決定される。群落内における植物体の表面積の空間的配置構造を群落の立体幾何学的表現という意味で「幾何学的構造」と呼んでいる。生長が盛んな草本群落では,植物体表面の大部分を葉が占めるので,群落の幾何学的構造は,葉面積の空間的配置構造を意味する

1)幾何学的構造の測定法
 幾何学的構造の測定法にはいくつかの方法があるが,いずれもかなり面倒な手法である。幾何学的構造の重要性が指摘されながら,簡便な測定法がないため,実際の群落では測定された例がそれほど多くない。
(1)葉クリノメータ法
 層別刈り取りを行いながら,層内の葉または葉片について,葉クリノメータを1枚1枚の葉に当てて,法線の天頂角を測定すると同時に方位角を方位盤によって測り,両者の測定値を適当な幅にグループ分けして葉面積を求める。たとえば,天頂角を15°刻みの6段階,方位角を45°刻みの8段階,すなわち6×8=48グループに分けて葉面瀬を測定する。

図7 葉クリノメータ(伊藤ら,1971)

図8 葉の傾斜角の測定

(2)投影法
 調査用に選定した各個体の1枚ごとの葉に,その基部(P1),湾曲部(P2),先端(P3)のX-Y座標を測定し,別に測定した葉の全長Lを用いて,図上に葉の投影図を描く。

図9 トウモロコシの葉群の軌跡図の生育時期による変化(宇田川ら,1968)

(3)ポイント法
 群落内を細長い針を一定間隔で挿入し,針の先端が葉に接触した数を記録し,針の挿入した距離で割って,接触回数の相対値を求める。これを用いて葉の平均傾斜角を計算する。

2)幾何学的構造の測定例
 トウモロコシ葉群の軌跡図の生育時期による変化をみると,葉の方位分布と傾斜角が生育に伴って変化するのがわかる。方位角は北が0°南が180°傾斜角は水平葉が0°垂直葉が90°で表す。生育前期は比較的上層に葉が集中し,傾斜角も45°付近の葉が多いが,後期には葉は全層に分布し,傾斜角も一様な分布に近づく。
 畦方位に向く葉と畦に直角方向に向く葉の割合を求めると,生育前期に直角方向に向く葉がやや多いが,しだいに方位角に関しては一様な分布に近づく傾斜角に関しては。極端な直立葉型の品種(IR-8)をそうでない品種(マンリョウ)とでは著しく異なり,IR-8では生育に伴って直立性が強まるが,マンリョウでは一様な分布に近づく。

図10 イネにおける葉の空間的配置関数の生育に伴う変化(伊藤ら,1973)
(L0:葉面積指数,h:群落高さ)